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タイラと追熟と将来設計

10 30, 2011 | Articles

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動物は未来のことを考えられるか?というのは非常に複雑かつ検証が難しい問題で,多くの心理学者や動物行動学者の間でいまも議論が続いています.

広い意味では冬眠のために食いだめをしたり,産卵のために川を遡るのも未来に向けた行動ですが,これらは日照時間や温度といった環境変化によって自動的に起こる固定的な行動パターンで,未来に関する心象は必要ないとされています.「パブロフの犬」のような条件づけられた反応もこれに同じ.一部の研究者は,過去の経験に基づき,自身の未来の行動を脳内でシミュレートするような能力(mental time travel: 心的時間旅行)はヒトに固有であると主張します.一方,このような狭い定義でのヒト固有性は重要ではなく,どんな動物がどのような認知プロセスで未来に備えていて,なぜそれが進化のなかで獲得されたかを考える方が有益だと考えるひとたちもいます(Raby & Clayton 2009).

このように混沌とした状況ではあるものの,少なくとも「将来の必要性に備えた計画的な行動」という意味では,チンパンジーや貯食をするカケスはかなりいい線いっていることが,これまでの研究からわかっています.
そこにタイラという聞き慣れない動物が名を連ねるかもしれない,というのが今回紹介する論文

タイラはメキシコからアルゼンチン北部の中南米に広く生息する,体重5kg前後のイタチ科の動物です.日本にもいるテンとは近縁で,ざっくりいうと夏毛のテンを大きくした感じ.

彼らはマーモセットやナマケモノを襲うこともあれば,果物や蜂蜜も好む雑食性.順応性が高く,原生林だけでなく人家の近くや農園にも生息しています.

この紹介記事によると,研究はコスタリカの農園でのひとつの観察例から始まりました.一匹のタイラがするするっと木を駆け上がると,ブロメリア(着生植物)の根元から熟したバナナ(スーパーで見るのとは別種の調理用バナナ又はモンキーバナナ:Wikipedia - plantainを取り出し,食べるのを見た筆者.「もしかして熟すまで置いといた?」と考え,これを検証することにしました.

ちなみにブロメリアはこれ.ヤドクガエルの産卵場所としても有名です.
Bromelia
Photo by Cristóbal Alvarado Minic on Flickr

直接の観察では,3年間の間に熟したバナナを隠し場所から回収するところが4回,未熟なバナナを隠すところが2回観察されました.先述のブロメリアのほか,地面の穴に隠すこともあったそうです.

バナナの追熟はいつ収穫してもできるわけではなく,でんぷんが十分に行きわたった「育っているけど熟れていない」実を取る必要があります.タイラはまさにこれをやっていました.

研究が行われた農園ではハナグマ,オポッサム,オオハシもバナナを食べていましたが,みな完熟のバナナだけを,持ち去らずにその場で食べていました.一方のタイラは,バナナの成熟の5段階(5が完熟)のうち4の実を持ち去るところが複数回センサーカメラに記録されていたのです(論文のSupplimentに写真あり.アクセスがあるひとはぜひご覧ください).

タイラが実をもいだあとには噛み跡が残るため,痕跡からもバナナ泥棒を調べることができます.36本の木ののべ2000個以上のバナナの実のうち,1-3の成熟段階で盗まれるのはほぼゼロだったのに対し,4の段階では少なくとも全体の4%程度がタイラに持ち去られていました.そこで段階4のバナナ22個に発信器を埋め込んでみたところ(これ,かなり賭けな気がします)3つが後日別の場所で,熟してから食べられた痕跡として発見されました.

さらに筆者はタイラが見つかりにくい場所を選んで隠しているかどうかを確かめるため,農園とそこに隣接する森の中の樹上/地上にバナナを置いて,2日後にどうなるかを調べました.結果,森の中より農園の方が,地上より樹上の方が盗まれにくく,農園のなかのブロメリアは隠し場所として最適だとわかりました.

1匹の個体が連続して行った証拠こそないものの,未熟なバナナを持ち去る→隠す→熟したあと回収するというそれぞれの段階の観察は,単なる偶然では説明できなそうです.

普通,動物の貯食は「いま食べられるものを将来食べるために貯める」行動であり,このように「いまは食べられないけど将来食べられるようになる」ものを貯めた例はこれまでナキウサギ(毒物を含む木の実を貯め,時間が経って毒が分解されてから食べる)でしか知られていませんでした.バナナは他の動物にも人気のある食べ物なので,誰も食べない未熟なうちに隠しておくのは競争を避けるうえで非常に有利な行動です.

ARKive photo - Foraging tayra
えーっと,この辺に入れたような。

ただし,この行動は必ずしもタイラに将来の計画をする能力があることを意味するわけではありません.先の紹介記事の言葉を借りると,バナナを隠すときに「5日後にはおなかが減ってるだろうから」と思っているのか,単に未熟なバナナを隠しておけば数日後には食べられると学習しただけなのかはわからないのです.正直,この違いがそんなに大事なのか,僕にはいまいちわかりませんが...

タイラの心の中をのぞくひとつの鍵は,バナナがアジア原産で数百年前に入ってきた外来種であること.じつはタイラは在来の柿に似たサポーテの実も貯食して追熟させることが古い観察記録にあります.つまりバナナとサポーテという,分類も遠く成熟の仕方の違う2種の果物に対して,「育ってるけど熟してない実」という共通の概念をあてはめることができるのかもしれない,と筆者は言います.とはいえ1個体がどちらも正しい時期に収穫できるかは不明.もちろん,この農園のなかで追熟を利用する個体がどれくらいの割合でいるのか,他の地域では他の果実を追熟させるかどうか,子どもはどうやってこの行動を学ぶか,などについても疑問はつきません.

それにしても,まさかこんなマイナー動物が認知科学研究のホットトピックに絡んでくるとは!
タイトルを見たときは飼育下の事例報告かなと思いましたがさにあらず.なんとか野生での傍証をかき集めて合わせ技一本,というのに苦心のさまが伺えます.現地ではタイラは肉食獣のなかでは見やすい種らしいので,今後の進展に期待したいところです.

ARKive photo - Tayra male in rainforest
タイラスマイルはちょっと怖い。

参考文献
Raby, C. & Clayton, N. (2009) Prospective cognition in animals. Behavioural Process 80: 314-324.
Soley, F. & Alvarado-Diaz, I. (2011) Prospective thinking in a mustelid? Eira barbara (Carnivora) cache unripe fruits to consume them once ripened. Naturwissenschaften 98:693–698.
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